毎回、「こんなこと知らなかったなあ」と発見する映画祭

この10年ほど、毎年うかがっている「第14回ゆふいん文化・記録映画祭」5月末に開催されていたのが、1ヵ月遅れの6月24日(金)~26日(日)に開催でした。

今年の目玉は、「東北地方復興支援企画」として、 前夜祭(5/24金)で松川八洲雄監督の「映像叙事詩 みちのおく~岩手より~」が上映されました。
東北地方「みちのく」の文化、風土、風習、民俗をあたたかい視点で美しい映像と文章で見せてくれます。
福岡にいると、東北は遠い存在に感じますが、祭りや習慣を見ていると九州に近いのでは?と思います。

ロビーでは「大東北物産販売」も開催!東北地方の物産品の販売が行われていました。

今年のラインナップは、 まず「原発切抜帖」(土本典昭監督/1982年)が10年ぶりにアンコール上映。
この作品はチェルノブイリ原発事故の前、1982年に作られています。
原発施設も地元の人たちもガードが固く、取材ができないので、戦前・戦中から集めていた新聞の切抜きで映画を作った土本監督。驚くほど、60数年前と変わっていない日本の原子力の実態が浮き彫りにされていました。

被爆国だからこそ、原発を推進してきた経緯が恐ろしいほど見えてきました。
65年前も、32年前も、25年前も、3カ月前も、原発事故を繰り返し、その度にマスコミも政府も世間もまったく同じ報道をしているのが笑えるほどです。
何も学んでいない日本なのです。
この映画、7月にKBCシネマで上映があるようです。
 
そのほか、「Canta! Timor(カンタ・ティモール)」(広田奈津子監督/2010年)、これもまったく知らなかった東ティモールという国のおよそ30年にわたる独立運動のドキュメンタリーですが、インドネシア軍部による弾圧・虐殺がひどい!
100万人しかいない国民の2割以上が殺されたとか。

弾圧するインドネシア国軍にお金を出し続けていたのは日本政府でした。

そして「死んどるヒマはないー益永スミコ 86歳」、大分の方ならご存知の有名人で、この人も戦い続けている方です。

それに「朝鮮通信使/王墓を掘る男」はめったにみられない貴重なTVドキュメンタリー 。
糸島の考古学者・原田大六という人が登場しましたが、この人の存在も知りませんでした。「喧嘩大六」と呼ばれていたらしく、在野の研究者らしく(?)大学や学会に喧嘩を売っていたようで、このドキュメンタリーも45分の作品が、各分野からクレームがついて、切られ切られて26分になったものが上映されました。

途中に、「第4回松川賞」の受賞作品も上映。
松川賞は故・松川八洲雄監督の偉業を偲び、設けられたもの。
なかなか陽のあたらない中・短編ドキュメンタリー映画の新しい映像の可能性を発信していきたいというものです。

ばっちゃん引退ー広島・基町 名物保護司 最後の日々」(NHK広島放送局)

原爆投下を阻止せよーウォール街エリートたちの暗躍」(NHK広島放送局)

→緑に包まれた湯の岳庵
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→東北支援の販売所
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→松川賞受賞者たち
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→シンポジウムには、藤原新也さんも出席
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釜山トタトガ訪問記

紺屋2023の306号室居住者でもある「ART BASE 88」の初ちゃんに誘われて釜山に出かけました。

目的は、プサン市がバックアップしているアーティスト支援「トタトガ」の活動を視察するためです。

トタトガは造語で、およそ次のような意味がこめられているとのこと。
ト tolerance(それぞれが違う、というニュアンス)
タ 別々である
ト 同じ
ガ 道または街

釜山広域市の「中区」(ちゅうく)にあるのですが、ここはもともと釜山市役所があったのに、約15年前に市役所が開発地区に移転したため、周りの金融会社や商業施設も移転し、20万人ほどいた住民が5万人に減少し、空き店舗が増加、小規模の印刷会社も仕事がなくなったのを釜山市が、トタトガのなんとか「ART」の力で地域を再生できないかという提案を受けて、実施しています。

空き店舗や空き事務所にアーティストを3年間無料で、工房として貸してあげますが、3年間の間に彼ら、彼女らは自立しなければなりません。
そのまま居ることもできますが、そのときは家賃支払いが発生します。

アーティストといっても、アートだけでなく、文学や詩、パフォーミングアーツや伝統芸能関係者も対象になっています。

アーティストたちのミッションは
①3年で自立できるちからを持ちなさい
②1カ月120時間、その工房に滞在しなさい
③市や地域が主催するイベントには参加、もしくは作品を出品しなさい

というもの。

釜山市は家賃を払ってあげますが、建物のオーナーが協力しないと成り立たないし、地域の住民が受け入れてくれないとこれまた成り立たない仕組みなんです。

ここらへんは「紺屋2023」に似ていますよね。

たとえば、地域の高齢者が引きこもろがちになったら「写真教室」を開催して写真家が高齢者に写真技術を教え、展覧会も開いてあげるというもの。

すごいのは、釜山市が引きこもりがちな高齢者や障害者の人たちに「何がしたいか」というアンケートを取って、「似顔を描いてほしい」「コンサートに行きたい」「作品を作ってみたい」といった要望があると、所属しているアーティストを派遣します。
派遣されたらその家でコンサートやったり一緒に作品を作ったりするんです。

それをトタトガでは「才能寄付」と呼んでいました。

才能がある人は寄付することが、ある意味、義務付けられているのです。

今回は、所属するアーティストたちの工房めぐりを中心に発表している現場にもお邪魔しました。
はっきり言って、若者が一生懸命がんばっているのを大人が応援していこうという仕組みがそこにありました。
文化活動に行政が口やお金を出すと問題も起こりますが、家賃補助など自立することに支援するのは良いことだと実感しました。

「ART BASE88」がやろうとしているのは以下のようなこと。
転載します。

8月から9月にかけてTOTATOGAの協力を得て、福岡市内、主に博多駅や川端周辺で、プサン作家のパフォーマンスやアート作品の展示がいろいろな会場でおこなわれます。
それぞれ、主催の仕組みや予算建てなどはばらばらです。
8月 キャナルシティ博多でプサン トタトガのチームがパフォーマンス公演がおこなわれることになりそうです 博多阪急ART CUBEでプサン作家が展示するかも ※交渉中
9月 JR博多シティ(アミュプラザ博多)でプサン作家と福岡作家のコラボレーションアート作品展示 ※関連企画(九州アートゲート関連)
福岡アジア美術館8Fでプサン作家の展示 福岡アジア美術館7Fでプサン作家と福岡作家の展示(上記と1週違い)
アジ美展示に連動して、川端周辺でプサン作家の展示
JR博多シティ(アミュプラザ博多)でプサンアート情報とグッズの販売 ※関連企画(九州アートゲート関連)
JR博多シティ(アミュプラザ博多)でプサンアート作品展示とパフォーマンスおこなう可能性あり
その他市内でパフォーマンスをおこなう可能性あり 以上はあくまで予定です。
日程や作家など改めてお知らせします よろしくお願いします。

トタトガの関係者が美味しい店にいっぱい案内してくれました。

初日の昼は「大宮サンゲタン」、夜は国際市場の近くにあるデジカルビの店「山海カルビ」、2日目のあわびのお粥、夜は花村という地域でカニのキムチ・ケジャンを、3日目の昼は国際市場でスンドゥフの店「ドルゴレ」へ。

もちろん、帰ってきて体重計に乗ったら大変なことになっていました。
今日から粗食です。


→釜山で上映されている映画のチラシ
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→釜山の港を背景に、トタトガのアーティストが描いたダイナミックな作品
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→国際市場にあるドルゴレのスンドゥフ
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久しぶりに上海、行ってきました!

3年ぶりくらいに上海に行ってきました。

今の研究「高齢社会」に関する専門家会議があったのでそれに出席するため、出張してきました。
万博以前の上海しか知らないので、どんなに変わっているか、物価がどれほど上がっているか気になったのですが、なにせ、学会発表みたいなもので、ずっと会議室に缶詰め。
朝は8時半から夕方6時まで発表を聞いて、その後は用意された上海料理の宴会場でご飯を食べる...。それで終わりです。

でも、この専門家会議がすごいのは、日本、韓国、中国の高齢者研究者たちが40人ほど集まってきて最新のデータや課題を報告することです。今年で17回目だとか。
日本、韓国、中国で会場を1年ごとに変えながらこの会議を続けているそうです。
昨年は上海万博だったため、昨年も上海、だから2年続けてということです。

今回の会場は上海社会科学院というところ。
中国で社会科学院というのは、最高レベルの人文科学の学術研究機関であると同時に中央政府機関であり、中央政府あるいは地方政府政策立案のシンクタンクでもあります。
上海社会科学院は中国社会科学院に次ぐもので、地方ではもっとも大きいアカデミー。なので学生などはいません。政府のブレーンといった立場でしょうか。

日本でも中国でも、そして韓国でも大問題なのが少子高齢社会の到来です。

日本が先に高齢社会を迎えていますが、韓国は2019年に、中国は2024年に高齢社会を迎えます。
ちなみに高齢化社会というのは、65歳以上の人口が全人口の7%、高齢社会は14%になったとき。
日本は1994年に高齢社会となりました。
そのために制度としてつくってきた年金や介護保険など、これから韓国や中国が必要に迫られてくるということです。
制度だけではなく、サービスや住宅、交通や建築のバリアフリーの取り組みなども重要なんです。

共通する課題は、いかに元気な高齢者でいてもらうかということ
 
WHO(国際保健機構)が提唱しているのはアクティブ・エイジング(Active Ageing) 、人が有意義に年をとるには、長くなった人生において健康で、社会に参加し、安全に生活する最適な機会が常になければならない としています。

...こんな研究もしていますという報告でした!


→高齢者専門家会議風景
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→上海社会科学研究院の前で
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→宴会後に披露された上海の高齢者たちのダンス 皆さん、きれいです!
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メディア芸術オープントークなるものに参加

文化庁が主催している「メディア芸術オープントーク」、意図は以下の通り。

文化庁では,マンガ,アニメ,ゲーム,メディアアートなどのメディア芸術の関係者・関係機関のネットワークを構築し,メディア芸術に関する情報の収集・発信と関係機関等の連携・協力を推進することでメディア芸術の一層の振興を図る「メディア芸術コンソーシアム構築事業」を平成22年度から実施します。

とのことで、会場の福岡アジア美術館に足を運びました。

隣の会場ではなんと!萩尾望都先生のトークショーが。
こちらのトークショーは20倍という倍率で抽選に当たった人たちが集まっていたとか。

メディア芸術の方はというと、偶然通りかかった人たちも参加というのんびりさでした。

トークの参加者は京都国際マンガミュージアムを関わった京都精華大学芸術学部の島本浣さん
アーティストでもある東京藝術大学大学院映像研究科の藤幡正樹さん
カルチュラルスタディーズの中心的な存在である東京大学大学院情報学環の吉見俊哉さん
そして「趣都の誕生 萌える都市アキハバラ」の著者である明治大学国際日本学部の森川嘉一郎さんの4人。
森川さんが基調講演でした。

出席してはじめて知りました。
今日のテーマは「オタク」...。

大学院生時代、私の回りにも「オタク」研究者はたくさんおり、ず~っと話を聞いているのは苦手かもと思ったのですが、
森川さんの話がおもしろかったああ。
彼は、元々建築の出身、ある時、福岡・九州にも縁が深い磯崎新さんにヴェネチア・ビエンナーレの日本館コミッショナーをやれと声をかけられたのだとか。

そして開催されたのが「おたく:人格=空間=都市」展。

これが評価され、現在は明治大学において「東京国際マンガ図書館」(仮称)を2014年度に開設すべく、準備を行っているそうです。

国をはじめとする自治体が文化、特にこのようなサブカルチャーに関与してくるというのはいかがなものか?という疑問があるので出席したんですが、森川さんの明快な答に目からウロコが落ちました。

要はアーカイブの重要性なんですね。

森川さんいわく、国会図書館でもマンガはすべて保存されていないし、保存されているマンガもすべてカバーが取り外されているらしい。
基本的に国会図書館に集まっているのは、出版社が自主的に送るシステムらしく、送ってないものは当たり前のように保管されてないってことです。
ましてや、同人誌などは問題外ってこと。
だから同人誌や絶版になったマンガは今、ボランティアグループが収集し、自分たちがお金を出し合って倉庫を借り保存しているとか。
なので、国や自治体はこれらペイしない保存をやってほしいと言うのです。

好きなものばかりを集めるコレクションではなく、網羅して集めることが重要なのです。

そのモノの価値が定まらないものにお金をかけることが最も苦手なのが日本でしょう。
浮世絵など、海外で評価されてはじめてその価値に気付くのですよ。
藝大の藤幡さんが言ってました。「藝大には、浮世絵も漫画も教える人はいない」と。

同時代に発生しているマンガを収集し分類して後生に残すこと。
50年、100年経ったときに重要な資料となることを信じて森川さんの図書館づくりが始まっています。

応援したいですねえ。