福岡ミュージアムウィーク

毎年恒例のイベントとして定着しつつある「福岡ミュージアムウイーク」。

第3回目となる今年は、5月14日(土)から29日(日)に開催。
このイベントは世界中で行われているもので、5月18日の「国際博物館の日」を中心に、世界各国の博物館や美術館が記念行事を行います。

国際博物館会議(ICOM)が発表した今年のテーマは「Museum and Memory」
まさに、ミュージアムそのものが、記憶の集積空間ともいえますね。

福岡市博物館、美術館、アジア美術館、福岡県立美術館でさまざまなイベントが行われましたが、その中のひとつ、5月21日(土)に福岡アジア美術館で行われた、作家・写真家の藤原新也の講演会「写真と言葉」に行ってきました。

藤原新也は1944年福岡県門司の生まれ。写真家・作家。
インドを振り出しにアジア各地を旅して「印度放浪」「西蔵放浪」などを出版。

発売当初、衝撃的だった「東京漂流」「メメント・モリ」「アメリカ」「日本浄土」などは今でも大切にしている著書です。
ずいぶん以前に門司で行われた講演会に参加したことはありましたが、ずいぶん久しぶりにお話を聞きました。

今回は、四国を巡って撮影した写真88点と書と音楽の融合、昨年出版された「死ぬな生きろ」に関するものでした。
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四国八十八ヵ所巡りにひっかけての88枚の写真ということでしょう。
八十八夜ともひっかけているので、1枚目は一夜と名づけられていました。
四国を巡る旅の中で見てきた日常風景です。
その風景に言葉が付き添っているのですが、その言葉は藤原新也の見事な書によって表現されています。

写真、文章の達人だけではなく、どうも書も達人の域でした。
本人いはく「情景を受け取る言葉を書いていくので、自我を出す書体は持たない」と。
その書を見れば、ああ、藤原が書いたんだという独自のスタイルを持たず、情景・風景に合った書を書いています。

88枚の1枚目は「花」、写真は牡丹の花。
88枚の中に繰り返し、テーマである「死ぬな 生きろ」の言葉がリフレインされていますが、すべて書のスタイルが異なっているのです。
「書は声に近い、VOICEなんです」と。
ううーん。これで読む方は印刷された言葉なので伝わりにくいのですが、そう言われると、確かに声に近い。
力強い書、優しい書、励まされる書、ほのぼのする書...さまざまです。

お気に入りは最初のほうに出てきた「犬地蔵」、そう地蔵のような犬が1匹。そして終わりに近い82夜は「人生の終りは定食でよい」と、うどん定食の写真が。
最後の88夜は「大輪」という牡丹の花。またリフレインですね。

2時間の講演会は3時間にも及びましたが、帰った人は1割程度。
ほぼ200人の満席状態でした。

超過した1時間は東北被災地にすぐに訪れて撮ってきた写真を見せてくれました。
子どもやお年寄り、カップルの被災者に「円顔」と呼ぶ、丸い顔が笑っているような絵を描いてプレゼントしていたようです。
それを持って、記念撮影していました。
放射線測定器をいつも持っているらしく、どこに行っても測定してみるとか。
最後まで濃い講演会でした。

また29日(日)14時から市美術館で行われる、画家・菊畑茂久馬さんと劇団ギンギラ太陽's主宰・大塚ムネトさんによる対談「天神と前衛美術家」(要申し込み)など注目企画も目白押しです。
お見逃しなく!

岡本太郎記念館に行ってきました!

東京に出張してました。
噂どおり、東京は暗い!
コンビニも百貨店もレストランも地下道も昼間なのに暗い!
地下鉄もエスカレーターが動いてないため、すべて階段です。
スーツケースを持って移動している人や高齢者は大変だと思います。

仕事が表参道だったので、近くのホテルに宿泊し、午前中は根津美術館で杜若屏風を見ようよ張り切って行ったら休館でした。
しかたないので、その近くにある岡本太郎記念館に行くことにしたんです。

岡本太郎は1911年生まれなので、今年が生誕100年
だからさまざまなイベントや展覧会、そしてテレビドラマや特集が組まれているのです。

岡本太郎記念館は私立美術館。ここは、岡本太郎が1953年から1996年、84歳で没するまでアトリエを兼ねた住居として使用していた建物を記念館としたものです。
膨大な数の彫刻、デッサンなどが展示保存されており、1階には岡本が使用した筆や絵具、また応接間が再現、そこには岡本太郎の人形が立ち、ちょっと驚かされます。
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2階にはあの「太陽の塔」のミニチュア版や、その塔の中にうごめいていた「生命の樹」の20分の1のフィギュアが飾られています。
小さいとはいえ、フィギュア製作では有名な海洋堂が復元したもので、単細胞生物から恐竜、人類まで、進化する生物がびっしり張り付いていました。
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楽しいのは庭!
生前はこの庭で彫刻を彫っていたそうです。

狭い庭に所狭しと大きな彫刻がランダムに置かれていますが、迫力なのは「若い太陽」像と「乙女像」

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あまりに気に入ったので、携帯の待ち受け画面にしてしまいました。
入場料は600円、すべて写真撮影OKです。

客席オールスタンディングで勘太郎に拍手

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九州新幹線全線開業記念として開催された博多座の3月の「桜壽博多座大歌舞伎」、
ご存じのように体調不良のため、中村勘三郎が休演することとなり、長男の中村勘太郎が代役公演となりました。

夜の部はコクーン歌舞伎や平成中村座でお馴染み「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」。

これは串田和美演出・美術で、ニューヨークやベルリンなど海外でも大評判だった話題作。
大阪で見ましたが、勘三郎だからこそ演じられるという評判の舞台です。

たぶん、大勢の方がそう思い、勘三郎の「夏祭...」、それも九州では初演となるこの舞台を見たくて18000円もするチケットを買ったことでしょう。
私ももちろんその一人です。
それが勘三郎休演、勘太郎が代役をやると聞いて、「大丈夫だろうか?」とこれまた多くの人が感じたはずです。

しかし私は何を隠そう、勘太郎のファンでして、彼の成長を見守っている一人なのです。
2月には東京で勘太郎と藤原竜也の「ろくでなし啄木」も見てきました。

博多座の初日は3月2日。
実は勘太郎、その「ろくでなし啄木」に2月26日まで出演していました。
それも半端じゃない台詞の量と動きでした。
いったいいつ「夏祭...」の練習をするのだろうか?と心配もしました。
もうこれは見守るしかないだろう!失敗と言われてもいいじゃないか!
でももしかしたら、歴史的な舞台を見ることになるかもしれないという予感もありました。
というのも、いずれ勘太郎がこの舞台をやるはずで、
その初演をどこよりも早く、博多で見られるのだと思ったら、急に楽しみになったのです。

そして...歴史的な舞台に立ち会ったと確信しました!

若いので台詞の深みはまだまだと思いましたが、立ち居振る舞い、動きに切れがあり、若さあふれる芝居です。
そして表情がすごい!写楽の役者絵を思わせる迫力あるものです。

コクーン歌舞伎、平成中村座で主人公・団七にどろどろになりながら殺される義理の父親・義平次を演じる笹野高史さん(淡路屋の屋号も持ってますが、歌舞伎界のひとではありません。自称・民間出身)が自身のツイッターでこんなことをつぶやいているのを発見しました!

「中村勘太郎さんの、団七が見ものだと発信いたします!相手役からの発信です!すでに若手歌舞伎俳優ではピカイチの存在ですが、父上様の当たり狂言という、もう一つプレッシャーがプラスされての役!光が発射されているかのような、立ち姿は惚れ惚れします!!」

これがすべてを物語っています。
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最後の捕り物場面「屋根上」は団七を捕らえようとする立ち回りが見ものですが、
この場面での勘太郎の動きがタダモノではない!

串田演出独特のセットが斬新で、この最後の場面で大いに盛り上がり幕を閉じました。

幕が終わっても拍手が鳴りやまず、オールスタンディングで拍手をするなんて、歌舞伎ではあまり体験しないことも起こりました。

演出の串田和美さんも博多座においでで、出演者に呼ばれて檀上に。
勘太郎にふさわしい演出をされていたのかなあと想像しました。

アートの森の小さな巨人...と名付けられたハーブ&ドロシー

残念ながら3月18日で映画は終了してしまいましたが、もしチャンスがあればぜひご覧ください。
映画公式HP『ハーブ&ドロシー』
ニューヨークに住む普通の夫婦の話です
でも違っていたのは!
夫妻はものすごいアートコレクターだったのです!

ハーブ・ヴォーゲルは1922年生まれ、高校を中退して郵便局に勤めていました。
ドロシー・ヴォーゲルは1933年生まれ、大学院を卒業後、公立図書館に司書をしていました。

1962年に結婚し、それからハーブは夜学で美術を学びます。
ドロシーは特に美術には興味なかったのですが、ハーブの影響で猛烈に美術に詳しくなっていきました。

そして、二人がはじめたのがアートコレクションです。

ドロシーの給料を生活費に充て、ハーブの給料をすべて現代美術品を購入する費用に充てました。
1LDKのアパート住まいだったので、二人が決めたアート購入の約束は
①ハーブの給料で買えることと
②アパートに入ること
 
でした。
そこで、作品をミニマルアートとコンセプチュアルアートに絞ります。
ニューヨークである展覧会にはほとんどすべて足を運び、直接アーティストと交渉して購入します。

彼らが買いたいと思う作品の基準は「美しい・きれい」「気にいった」だけ。
展覧会の初日、客たちがワインなどを片手に語り合っている中、二人は真摯に作品を見て回ります。

そして40年の歳月をかけて集めた作品の数、4,782点。

購入した作家たちの顔ぶれは、
ドナルド・ジャッドクリストとジャンヌ・クロードリチャード・タトルチャック・クロース
など、今や世界的なアーティストたち。

こんなドラマチックな話は実話で、このドキュメンタリー映画を撮ったのが日本人の女性監督・佐々木芽生(めぐみ)さん。
夫妻のことはアメリカでは有名で、映画にしたいと申し出る監督やプロデューサーは数多くいたようですが、実現させたのは彼女だけでした。
撮影には4年間の歳月をかけたので、夫妻はすっかり監督を信頼していたようです。

ただ1場面、カメラが外に出されたことがありました。
それは、作家との値段交渉場面でした。
 
クリストのドローイングが欲しいとアトリエを訪れたら、あまりに高価で手が出なかったそうですが、後日、クリストのパートナーであるジャンヌが夫妻に電話してこう告げたとか。

「私たちは制作で家を長期間空けるけど、その間、猫を預かってくれたらドローイングを譲っても良いけど」と。

夫妻、大の猫好きで、もちろんすぐにOKの返事をして、クリストの有名な「ヴァレー・カーテン」(コロラド州ロッキー山脈の400メートルに及ぶカーテン)を手に入れたのです。

夫妻は収集したコレクションを1点もお金に換えることなく、1992年、コレクションのすべてをアメリカ国立美術館ナショナルギャラリーに寄贈することを決意しました。
1000点余りは同美術館の永久保存となり、残りは全米50州の美術館に50点ずつ寄贈したのです。

まるで、嘘のような本当の話。

アートとともに生きるって、地位やお金がなくとも可能だということをハーブ&ドロシーが教えてくれました。

宮本亜門の「金閣寺」、ニューヨークのリンカーンセンター・フェスティバルに招聘!

神奈川芸術劇場のこけら落とし公演「金閣寺」、先日キャナルシティ劇場で観劇した話を書きましたが
なんと!というか、
やっぱり今年7月に開催されるアメリカ最大の舞台芸術の祭典といわれる「リンカーンセンター・フェスティバル」に招聘され、上演されることが決まったそうです。

1996年に始まったこのフェスティバル、「世界一巨大なショーウインドー」といわれ、目利きのプロデューサーが世界各国から作品を厳選して上演するということで有名らしいです。

神奈川芸術劇場でこの作品を見たプロデューサーが招聘を決定したとか。

かつては「近代能楽集」や宮本亜門のミュージカル「太平洋序曲」が、そして昨年は蜷川幸雄の「ムサシ」(藤原竜也)が上演されています。
まさに宮本さんが意図した「日本的なもの」がニューヨークで、海外の人に鑑賞されるわけです。

やっぱり!と思ったのは、この作品の演出が海外公演を意識したものだったから。

金閣寺の象徴となるホーメイといい、大駱駝艦を使った舞台転換といい、
海外の人の目から見たら日本的だと思うだろうなあと感じましたから。
宮本さんの意図が見事に当たったわけですね。

森田くん、世界の舞台でデビューです!

ついでに、こんなトークショーがあったそうです。
行きたかったああ

会場:神奈川芸術劇場ホール2011年2月26日 13:00~16:30

<第一部:対談「劇場って何?」>
蜷川幸雄(彩の国さいたま芸術劇場芸術監督)
宮本亜門(KAAT芸術監督)

<第二部:座談会「芸術監督って何?」>
宮田慶子(新国立劇場芸術監督)
串田和美(まつもと市民芸術館芸術監督)
宮本亜門(KAAT芸術監督)

参加した人の報告を見ていると、ホール定員が1,000名ほどなのに、入りは3割程度だったとか。

もったいない!
このメンバーで話が聞けるなんて今後はないかもしれないのに...。
広報不足なのかなあ。
確かに私も知っていればどうにかして行ったはずだし。

聴いた人の話では、蜷川さんのコトバ
●公演ぎりぎりまで変える。俳優も替えたことがあるらしい。
●「金閣寺」主役・森田剛に、「宮本より僕は丁寧にやるから、次は僕のに出演してね」と言ったらしい
●公共の劇場が担うことは、知られていない芝居もやるということ。コクーンは若い役者たちにコンスタントに場を与えられるようにすることが使命 
●劇場は信頼されることが重要 
だったそうです。

今注目は新国立劇場です。
2010年9月から宮田慶子さんが芸術監督になって、見たい芝居が目白押しとなりました。

2月に再演された「焼肉ドラゴン」は4月16・17日に北九州芸術劇場にやってきますよ。
2008年に初演されたとき、その年の演劇賞を総なめにしました。

1970年、大阪万博の時代の在日コリアン一家の話。
笑って泣きます。
まだチケットあればぜひ!
超おすすめです。