「あんた、トラウマある?」

『ウルトラミラクルラブストーリー』の横浜監督の

長編デビュー作、『ジャーマン+雨』。

ジャーマン.jpg

不細工だし、貧乏だし、性格悪いし、嫌われ者だけど歌手になりたいよし子。

祖母が死に、父は長期入院中。

生活費を稼ぐために、小学生を集めて自宅で縦笛教室を開いています。

(厳密に言うと巻き上げている)

 

書きためた楽曲だけに飽き足らず、

彼らからトラウマを聞き出し、それを歌にしたり

自分がオーディションに受からないのは不細工なせいだと

友達の写真で応募したり、

本業の職場(植木職人見習い)のドイツ人にゴリラーマン呼ばわり

とにかくハチャメチャな奴です。

 

生徒の一人に、マルコメ君みたいな男の子がいるんですが、

女装?に憧れがあって、よし子のセーラー服を借りて鏡の前で

うっふん。状態。

そんなマルコメ君によし子は聞きます。

「あんた、トラウマある?」と。

 

振り向きながら満面の笑みで答えるマルコメ。

「ありません!」

 

この映画を観た当時、この「ありません」にどハマリして

真似したものです。

なんとも言えないんですよ、

いかにも湿気の多そうな古くて暗い民家の雰囲気と

セーラー服マルコメの声のトーン、

ぶっきらぼうな喋り口調のよし子が。

 

ちなみに、彼女の家はボットン便所なので

汲み取り屋がくるのですが、結構この描写が多いんです。

マンホールにも華麗に落ちます。

 

悩んだふりなんかせず、現実を受け止め生きる。

爽快でもなければ、鑑賞後の後味もそんなに良くない(笑)

ですが、一見の価値ありとはこのことではないでしょうか。

 

 

『ジャーマン+雨』

監督:横浜聡子

主演:野嵜好美(新人)

2008年公開

 

(笛好きにはたまらん。どき)

その時ゃ政府を倒すまで


東京にきて5年目、

5つ目の職場、

5人目の彼氏。

 

「あたしなんか」 「中の下ですから」

悲壮感漂う台詞がうざったいくらいに出てくる、出てくる。

不幸な女や不幸な境遇がうまい満島ひかりで成立するこの映画。

実家に呼び戻され、家業のシジミ工場を任された佐和子(満島ひかり)。

親父は瀕死だし、パートのオバチャンが面白いくらいに睨んでくるし、

バツイチの彼氏は子持ち、会社をクビになり佐和子に金魚のフン。

 

めんどうくさい、うっとうしい、うるさい、消えたい、

そんな感情を佐和子は「あたしなんか中の下ですから」の一言で押さえ込む。

 

 

風呂場で「あんた先に上がってて。あたし少し泣いてくるから」

ぶっきらぼうに、彼氏の子どもに言うシーンとか。(彼氏、同級生と家出中)

「いやだ、こいつメギツネだよ!」とオバチャンに言われるシーンとか。

忘れられない、愛おしい。(byジョゼ)

 

たまに垣間見える、人物それぞれの優しさが胸を打つのですが

これが『暗闇でしか見えない光』なのでしょうか?

 

ある日、佐和子は『中の下』でしか持ち得ないエネルギーで、

とんでもない再起を図るのです。

それが、社歌。

 

"上がる上がるよ消費税 金持ちの友達一人もいない

来るなら来てみろ大不況 その時ゃ 政府を倒すまで"

 

前のめりで唱う、木村水産のみなさんがとても輝いています。

 img8793f5c4zikfzj.jpg


 

うちも社歌作ったら良いですね。

ちなみに、満島さんは本作の石井監督とご結婚されました。

 

彼女は元・folder5というアイドルグループに居て、

私は彼女たちの「ビリーブ」という曲が大好きなんですね。

アニメ・ワンピースに使われていました。

 

川の底からこんにちは/2010年公開

監督 石井裕也

主演 満島ひかり

 

 

(どき)

THIS IS ENGLAND

ベン・シャーマンのシャツに、マーチンブーツ。

タイトなデニムにサスペンダー、スキンヘッド。

1983年、あなたは何をしていましたか?



this is.jpg


何かを誇りとすること。

そして、それを守るということ。

自分の頭で行動すること。









隅から隅までイングランドです。

何かを得るような映画ではありません。

ただ、そこに、確かにイングランドが存在するのです。

 



this is england.jpg




 

THIS IS ENGLAND」/2009年公開

シェーン・メドウス監督/主演 トーマス・ターグーズ

製作国 イギリス

http://www.youtube.com/watch?v=akYKDnQ_bd4

 (当時はうまれてない。ドキ)



別人になりたい気持ちが分かるかな。

 

===========

別人になりたい気持ちが分かるかな

自分の顔が嫌いだしどこに居たって気付かれる顔じゃない

昔から別人になりたかった

自分に違和感を感じてる

今の僕よりもかっこよくなりたい

個性的な人物になって

生きる目的が欲しい

自分を見つめるより

他人の良い面をマネるほうが楽だ

違う顔にしたり

ダンスや歌う歌を変えればいい

変われるチャンスが待ってるんだ

自分以外の者になる時だ

自分のなりたいものになれれば

世界がよくなる気がする

 

 20080921_312254.jpg

 


ミニバイクに乗り、弧を描きながらマイケルジャクソンが向かってくる。

ステージで、パリの路上で、老人ホームで、どこでだってマイケルは踊る。

 

この映画の凄いところは、マイケルはじめ、

マリリンモンロー、チャップリン、マドンナなど

大スターが集結していることだ。

そんなことを言うと、

「興行収入目的のキャスティング」だの「出演料何億!?」だのと

心配してしまうけれど、

安心していい。

ここに出てくるスターは全員ニセモノなのだ。

つまり、モノマネをしているということになる。

 

何かのマネをしているうちに、自分がそんな人間になった様な気がしてくる。

 

例えば、

男っぽい女性がJJファッションに身を包み、女らしくなる。

 

ラッパーに憧れて、まずはファッションから真似して、

自分がちょっと悪くなった感じがして、

そのうち、ラップをつくり始めたりして、本物のラッパーになったり。

 

マネから始まって、どんどんそれが『自分』になって

でもそれは自分自身ではなくて、

じゃあ自分って何?ってなって、

そんなこと考えたくないからまたマネして、

自分とマネしている自分の境目が分からなくなっていく。

もう、マネすることでしか生きられない。

マネしないことは考えられない。

マネしない自分は自分じゃない。

そんな人が主人公の映画です。

 

純粋で不器用な傷つきやすい登場人物たち。

明るく装っているけれど、心は泣いている。

そんなことは、よくある話だ。

納得していないのに、ものわかりの良い振りをして

時間を過ごすことなんて誰しもあるだろう。

そんなことにいちいち傷ついてなんかいられないから、

気持ちに蓋をして、生きていく。

馬鹿みたいだ。

馬鹿だけれど、そうしてしまう。

だって、他にどうすればいいの?

泣き叫んで嫌だ嫌だと駄々をこねるのか。

誰かが犠牲になって、地球が回っているのだとしたら

自分だってこんな我慢はするべきなのだろう。

 

理想の自分を心に飼っていて、

現実とのギャップに人は苦しむ。

 

「ひとりがすき」と言う人は、独りじゃないから言えるのだし、

「本当の自分が出せない」と言う人は、『本当の自分』を知っているから言えるのだ。

私は常々、そう言う人を羨ましく思う。

 

http://www.youtube.com/watch?v=34iC0CUYwRo&feature=player_embedded

 

ミスター・ロンリー/2008公開 ハーモニー・コリン監督

主題歌 ボビー・ヴィントン

 


(ドキ)